時分割多重(TDM)と波長分割多重(WDM)
21世紀のマルチメディア情報社会に向けて、データ通信のトラフィックの急激な増加に伴い、快適なコミュニケーション環境を提供する超高速フォトニックネットワークの実現が急務となっている。このようなネットワークの多重化方式として、異なる波長の光を用いて信号を多重する波長分割多重(WDM)と、時間領域で信号を多重する時分割多重(TDM)が考えられる(図1)。WDMは、各チャネルの送受信機が別々に動作し、異なるフォーマットの信号を同一ネットワークに混在できるなど、チャネルの相互独立性が強いアナログ多重である。一方TDMは、多重(MUX)、多重分離(DEMUX)、クロック抽出、ネットワーク同期をはじめとする高度な信号処理を必要とするものの、同期された高速信号を一括して処理することができるディジタル多重を実現する。光TDM(OTDM)伝送はこのようなディジタル多重の利点を光領域で生かした伝送技術で、超高速光信号処理とならんで、将来のフォトニックネットワークの構築に向けて重要な技術である。

図1:TDMとWDM
1.28 Tbit/s OTDM信号伝送
図2:光伝送システムと信号パルス間隔
図2は、国内の基幹光伝送システムのTDM伝送速度の進展を示したものである。伝送速度は 400 Mbit/s から 2.4 Gbit/s、10
Gbit/s へと進展し、WDMを用いることによってさらなる伝送速度の増大が図られている。現在ではさらに 40 Gbit/s 伝送系が開発中で、基幹系への導入が本格的に検討されており、この技術では電子回路の高速化が不可欠である。
次の研究ターゲットは、高速光パルス信号を電子回路を用いずに光領域で一括して多重する、160 Gbit/s さらには 1 Tbit/s
に及ぶ超高速OTDM伝送である。OTDM伝送は電子回路の動作限界を超えた伝送速度で通信できる特徴があり、ネットワークの高速化に不可欠な技術である。このような領域では、パルス幅がピコ秒(1ピコは10−12)さらには数百フェムト秒(1フェムトは10−15)に及ぶ超短光パルスを用いることから、フェムト秒パルス発生、高次分散効果の補償、全光学的な多重分離といった先端技術が不可欠である。

図3:1.28 Tbit/s OTDM信号伝送の実験系
世界に先駆けて実現された 1.28 Tbit/s 70 km OTDM伝送の実験系を図3に示す。信号光源は再生モード同期ファイバレーザーを用い、パルス幅3ピコ秒、繰り返し周波数10GHzのパルス列を発生させている。LN強度変調器により10
Gbit/sに変調したあと、分散フラット・分散減少ファイバへ入射させ、ソリトン断熱圧縮効果によりパルス幅を約200フェムト秒まで縮める。伝送ファイバの高次分散を補償するため、適切な位相変調を施しプリチャープを印加したあと、プレーナ光回路を用いて時間領域で64多重し、さらに偏波多重を行うことで1.28
Tbit/sの信号光を発生させている。
図4:1.28 Tbit/s OTDM信号伝送の信号光波形
信号光の波形を図4に示す。これらの図からわかるように、伝送後に高品質な信号波形が得られている。70 km伝送後のパルス広がりはわずか20フェムト秒であった。ビット誤り率を測定した結果、すべてのチャネルで10−9以下の誤り率(ビットの誤りが10億個に1個以下。光ファイバ通信に要求される基準)が得られている。
|