光ソリトンとは?
光ファイバにはパルスを広げようとする分散という性質が存在するため、通常の光通信では信号パルスをファイバに入射すると、受信端ではパルス幅の広がりによる符号間の干渉が生じデータを正確に検出できず(図1上)、伝送容量や伝送距離に限界が生じる。しかし、ファイバの分散によるパルス広がりを、非線形光学効果(Kerr効果)によるパルス圧縮とうまくバランスさせると、ソリトンと呼ばれる安定な孤立波が波形を保ったままファイバ中を伝搬する(図1下)。このソリトンを情報ビットに用いることで、大容量・長距離の光通信が可能となる。
本研究室では、ソリトンを用いた光通信のさらなる超高速化(1チャネル >100 Gbit/s;ハードディスクの全容量を数秒で送ることができるスピード)に向けて研究を行なっている。
図1:光伝搬時における光パルス信号の波形変化の様子
ソリトン通信の変遷
光ソリトン通信の形態は時代とともに変化を遂げつつある。提案当初(70,80年代)は、分散値や非線形性がファイバの長手方向に一様な伝送路を、振幅とパルス幅を一定に保ったまま伝搬するいわゆる「理想的なソリトン(ideal
soliton)」が検討されてきた(図2左)。しかし現実のファイバには損失が存在し、伝搬に伴って非線形性が減じられてしまうため、ソリトンが長距離にわたって伝搬できない問題がある。
90年代に入りエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)が実用化されると、損失と集中増幅により非線形性(つまりソリトンの振幅)がダイナミックに変化する伝送路においてもソリトンが安定に伝搬することが明らかになった。このように振幅の非断熱的な変化にも関わらず一定な分散値のもとでパルス幅を保ったまま定常的に伝搬するソリトンを「ダイナミックソリトン(dynamic
soliton)」「平均ソリトン(averaged soliton)」と呼んでいる(図2中)。
90年代後半に入ると、ファイバの非線形性だけでなく分散値も周期的に変化した伝送路におけるソリトン伝送の研究が本格的に始まった。このような伝送路ではソリトンの振幅だけでなくパルス幅も変化するが、一周期ごとに必ずもとの波形に戻ることから、これは広い意味でのソリトンと解釈でき、「分散マネージソリトン(dispersion
managed soliton)」と呼ばれている(図2下)。興味深いことに分散マネージソリトンは、パワーマージンや分散値の変動に対する耐性が大きく改善されるなど、従来のソリトンに比べて、通信への応用上、より理想的な性質をもっている。分散マネージソリトンの登場によりソリトンの光通信への応用が加速し、近年欧米ではAlgety,
Solstice, Corvisといったソリトンベンチャービジネスが誕生している。
図2:ソリトン通信の変遷
ソリトン技術の応用
光ソリトンは通信だけでなく、レーザー光源や全光学的信号処理へも応用されている。例えばソリトンの搬送波の位相はパルスの時間波形に沿って一様なので、ソリトンを互いに干渉させることにより、全光学的な(つまり電子回路を介さない超高速な)スイッチングが実現できる。またソリトンはその安定性から光の領域で自動等化が可能であるという性質を持っているため、このようなソリトン効果を応用してファイバを用いた全光学的な3R(Re-amplification,
Reshaping, Retiming)パルス再生器を実現することができる。このような21世紀の超高速フォトニックネットワークの構築に不可欠な光信号処理の設計も本研究室の研究課題である。
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