新たなる光通信への挑戦
光ファイバの通信波長は、800 nmから1.3μm 1.5μmと長波長へ移行してきた。これはシリカ系ファイバの最低損失が波長1.5μm帯にあることに起因する。それに併せてファイバ構造も工夫され、波長1.5μmで分散がゼロになる分散シフトファイバが実現され、現在の長距離伝送はこの波長帯を用いて動作している。しかしこの波長域での光通信の大容量化は飽和状態に近づきつつあり、より高速な通信を実現するためには、さらに高周波の搬送波を用い、より短い波長帯の帯域を開拓する必要がある。その一方で通常のファイバでは分散がゼロになる波長を1.3μmよりは短くできないため、例えば波長0.8μm帯での超高速光通信は実現されていない。
しかし最近イギリスから、「フォトニック結晶ファイバ」と呼ばれる、従来のファイバとは異なる全く新しい構造の光ファイバが出現し、可視域から1
mまでの波長域を用いた超高速光通信を予感させている。
フォトニック結晶ファイバ
フォトニック結晶ファイバは、クラッド部に穴を設けた構造をしている。このようなファイバは、(1) 非常に広い単一モード伝送波長領域をもつ、(2)
穴の設け方(大きさ、配置)によって零分散波長や非線形係数を自由に設定できる、など、これまでのファイバにはない数々の興味深い特徴を有している。

図1:フォトニック結晶ファイバ
フォトニック結晶ファイバは導波メカニズムの違いにより2つに大別することができる。
一つはコア部が通常のがらすでクラッド部に周期的な空孔を有する屈折率導波型フォトニック結晶ファイバ(Index-guiding PCF、あるいは単にPCF)である(図1左)。従来のファイバではクラッド部に化合物を添加させることによって屈折率をコア部より下げ、光を屈折率の高いコアに閉じ込めていたが、PCFはクラッド部の空孔により透過的に屈折率がコアより下げられているため、全反射により光がコアに閉じ込められ、導波の原理は従来のファイバと同じである。
もう一つのフォトニック結晶ファイバは、コア部が空洞でクラッド部に二次元的に空孔を配置して二次元のブラッグ反射で光をコア部に閉じ込めて伝搬させるフォトニックバンドギャップファイバ(PBF)である(図1右)。PCFが従来のファイバと同様の光閉じ込めの原理を有しているのに対し、PBFでは空気コアが結晶の欠陥部に相当し、周期構造による二次元的なブラッグ反射によって欠陥部に閉じ込められた光が長手方向に伝搬する。

図2:PCFの伝送損失特性(波長依存性)
PCFの損失波長特性を図2に示す。波長1550 nmと850 nmにおける損失は3.2 dB/kmと7.1 dB/kmと、比較的低い値をもっている。今後ファイバの構造をより改善することにより伝送損失はさらに減少し、最終的には従来のファイバの損失と遜色ない値にできることが期待される。
PCFやPBFの詳細な特性の理解と、これらのファイバを用いた新波長帯での伝送実験が今後の研究課題である。
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