マルチコアファイバ
EDFA とWDM 技術の実用化に伴い、我が国の光通信インフラは過去20 年間で3 桁の大容量化を達成しました。その一方で、今なお国内のインターネットトラフィックは年率40 %の勢
いで増加の一途をたどっています。今後20 年の間に予想されるペタ〜エクサビットへの情報量の拡大に対応するために、光通信インフラの飛躍的な高度化が求められています。
現在の光ファイバは、30 年以上前にその基本設計パラメーターが決められたもので、今日のような大容量化を想定したものではありませんでした。ファイバ1本あたり10 Tbit/sを超える
大容量伝送の実現に至った今日、伝送光パワーの増大に伴う非線形光学効果の顕在化、高い入射パワーによってファイバそのものが損傷するファイバフューズ現象などの問題が
大きな課題として浮かび上がってきています。そのため、陸上や海底系の光ファイバ伝送路をはじめとする光伝送ハードウェアの飛躍的な高度化が日本の情報通信の発展にとって
極めて重要であると言えます。
そこで、1 本のファイバに1 つのコアという既成概念を打破し、複数のコアを導入することによりファイバとしての自由度を飛躍的に向上させるマルチコアファイバ(MCF: Multi-Core Fiber)に高い関心が寄せられています。
近年報告されているMCF の例を図1 に示しています。最大で19 コアのMCF が実現されています。最近では12 コアMCF を用いて1.01 Pbit/s の超大容量伝送が達成されています。

図1:マルチコアファイバの報告例
MCFの設計にあたっては、コア間のモード結合を如何に抑制するかが最も重要な課題となります。中沢研究室では、マルチチャネルOTDR(Optical Time Domain Reflectometer) を用いたモード結合のファイバ長手特性の測定技術の開発に
取り組んでいます。その原理と測定結果の一例を図2 に示します。コア間の結合のばらつきなど、本測定法によりMCF の構造均一性の評価が可能です。

図2:マルチチャネルOTDR を用いたMCF のモード結合測定
フォトニック結晶ファイバ
光ファイバの通信波長は、800 nmから1.3μm 1.5μmと長波長へ移行してきました。これはシリカ系ファイバの最低損失が波長1.5μm帯にあることに起因するものです。
それに併せてファイバ構造も工夫され、波長1.5μmで分散がゼロになる分散シフトファイバが実現され、現在の長距離伝送はこの波長帯を用いて動作しています。
その一方で通常のファイバでは分散がゼロになる波長を1.3μmよりは短くできないため、例えば波長0.8μm帯での超高速光通信は実現されていません。
そこで我々は、「フォトニック結晶ファイバ」と呼ばれる新しい構造の光ファイバに着目し、可視域から1μmまでの波長域を用いた広帯域光通信の可能性について研究しています。
フォトニック結晶ファイバは、クラッド部に穴を設けた構造をしています。このようなファイバは、(1) 非常に広い単一モード伝送波長領域をもつ、(2)
穴の設け方(大きさ、配置)によって零分散波長や非線形係数を自由に設定できる、など、これまでのファイバにはない数々の興味深い特徴を有しています。

図3:フォトニック結晶ファイバ
フォトニック結晶ファイバは導波メカニズムの違いにより2つに大別することができます。
一つはコア部が通常のガラスでクラッド部に周期的な空孔を有する屈折率導波型フォトニック結晶ファイバ(Index-guiding PCF、あるいは単にPCF)です(図3左)。
従来のファイバではクラッド部に化合物を添加させることによって屈折率をコア部より下げ、光を屈折率の高いコアに閉じ込めていたのに対し、PCFはクラッド部の空孔により
等価的に屈折率がコアより下げられているため、全反射により光がコアに閉じ込められ、導波の原理は従来のファイバと同じです。
もう一つのフォトニック結晶ファイバは、コア部が空洞でクラッド部に二次元的に空孔を配置して二次元のブラッグ反射で光をコア部に閉じ込めて伝搬させるフォトニックバンド
ギャップファイバ(PBF)です(図3右)。PCFが従来のファイバと同様の光閉じ込めの原理を有しているのに対し、PBFでは空気コアが結晶の欠陥部に相当し、周期構造による
二次元的なブラッグ反射によって欠陥部に閉じ込められた光が長手方向に伝搬します。

図4:PCFの伝送損失特性(波長依存性)
PCFの損失波長特性の一例を図4に示します。波長1550 nmと850 nmにおける損失は3.2 dB/kmと7.1 dB/kmと、比較的低い値をもっています。中沢研究室では、単一モードPCFを用いて、これまでに
850 nm帯および1070 nm帯において面発光レーザ(VCSEL)の直接変調を用いた簡便な構成により10 Gbit/sの伝送を実現しています。
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